購読の対象:機器の製造販売、システム営業、コンサルタント
- 初めに(私の経験)
- 事例企業の概要と置かれていた状況
- 事例企業が立てた戦略
- 機器へのシステム組み込み
- 各関係者へのメリット
初めに(私の経験)
皆さんは、設備メーカーの製造販売を行なっている企業様とビジネスを行なったことはあるでしょうか。私はインドで工場のマネジメントをしていた経験があり、設備メーカーとはよく話をしていました。
その設備なんですが、まあよく壊れるんです。。。なので、自社で保守部署を作り、なるべくすぐに修理出来る状態を作っていました。
ただ、それでも業者を呼ばなければならないことはよくあります。これがまた大変なんです。在庫がない、修理に鬼ほど時間がかかるなど。当然インドクウォリティというのはありますが、設備が止まるというのは製造業で絶対にあってはならないことなんですね。
なので、重要なものは高いお金を払ってでも、良い技術者にお願いするということが一般的なのです。
そして、この業界こそ実はデジタルの出番なのです。
事例企業概要と置かれていた状況
事例となるA社の概況
- A社は日本では高いシェアを誇っていた
- 昨今、価格競争に巻き込まれ標準機器の製造販売では収益が低下
- 機器の販売・サービスを販売代理店に委託している
- 修理レポートや定期ヒアリングで修理情報や機能の使用情報を収集
- それを基に製品企画を行っていた
- 高度な修理は販売代理店ではなくA社が連絡を受け対応する
- 総じて優秀な技術者が多く在籍
A社の置かれていた状況
- 販売代理店は、昼夜修理に奔走し顧客への提案活動が行えていない
- A社の生産計画は、設計仕様上の耐用年数を考慮して計算(修理の実績くらい加味すべき)
- 補修部品は極少量での生産なので、ロット生産を行い在庫負担が大きい
- 高利益である、高度な修理サービスが出来ていない
事例企業が立てた戦略
こういった状況の中、顧客の設備を止めない仕組みづくりの構築を目指し、方法論はさておき、メンテナンスサービスに関する組織を立ち上げ以下の戦略を打ち出した。
- 販売代理店がやっている難易度の高い修理サービスを一部実施
- 予防保全・故障原因の分析などのコンサルティングサービス
- コンサルティングサービスで得た情報を基にした製品開発
顧客側のメリットは、適切な分析に基づく、コンサルティングサービスを受けることで設備停止のリスクを低減することである。
ただ、この戦略ですが古参の社員には非常に不人気の戦略だったのです。理由は組織を作らなくても適切な顧客対応と製品開発が出来ているという主張が強かったことです。ただ、その主張を深掘ると、出るわ出るわ「既得権益主義と他責」のオンパレード。
- 顧客は俺が一番わかっている(優良顧客を自分から離したくない)
- 分析などしなくても、保全のタイミングが分かる(手間をかけず楽したい)
- そもそも収益が下がっているのは代理店が提案しないから(他責)
ただ、こういった中、社長は財務諸表を古参に突きつけリアルを見せつけ説得を試みた。
機器へのシステム組み込み
戦略を描いたものの、今の時代人員を大幅に獲得することは難しく、戦略を効率的に実行していく必要があった。そこで登場するのが「組み込みシステム」である。
組み込みシステムとは、機器や機械に組み込まれている制御を行うシステムのことである。
機器メーカーのA社では、以下のように組み込みシステムを活用した。
- 対象機器にシステムを組み込む(機器本体に通信モジュールを埋め込む)
- システムが停止・稼動状況などを読み込み、無線を使用して知らせる
- これらの情報を通信回線を介して自社データベース内に蓄積し分析を加える
- 収集データは代理店にも共有
具体的には、電圧降下・圧力上昇・温度異常などの警告と故障状態を判別し監視用端末に表示をするシステムを構築したのである。
各関係者へのメリット
ここからは、この戦略のもと、システムを導入することで、どんなメリットとがあったかを見ていきたい。
①販売代理店のメリット
故障の前兆を捉えたり、故障箇所を事前に特定するので、販売代理店技術者の準備時間と顧客とのやりとりが激減する。また、時間が空き、データが共有されているので、データをベースにした提案活動が可能になる。
②A社のメリット
A社は、データから不具合の予測が可能になるため生産管理の精度が向上することになる。また、顧客の利用頻度や使用機能に関するデータ統計も入手できるため、的確な製品企画と提案が可能になる
③顧客のメリット
壊れてから、顧客が連絡をする頻度が減るので、顧客の生産性と設備の稼働性が向上する。また、自社だけでなく他者状況を踏まえたコンサルティングを受けることができるので、より客観的な判断が可能となる。
機器の停止は製造業において必ず避けたい永遠のテーマに近い。これまで、製造メーカーは設備を自ら改造と改良(改悪)を続け、誰も触ることが出来ない30年選手の「化け物設備」を生み出した企業も多いのではないだろうか。
適切なメーカーが、適切にコンサルティングを行い、適切な使用方法を守ることで今後持続可能な工場が出来上がる。これまで、良い技術者を持つ企業が日本の製造を守ってきた。これからはそれに加え、データが必ず必要になる。昭和の「贅沢は敵だ」「自前主義」という考えはあらため、適切な判断を行うことが今後の製造を明るくする。既得権益主義と過度な自前主義はやめましょう!